父親が亡くなった後に、残されていた遺言を確認すると、自分にはほとんど相続する財産が残されていなかった。
父親には晩年愛人がいて、遺言で愛人に全財産を譲るとされていた。
母親の生活はどうなってしまうのか?
上記のケースのように、相続人にとって不公平だと感じる遺言が残される場合もあります。
民法に定められている遺留分制度を活用するなら、法律で保証されている最低限の相続分を取り戻すことができ、生活の安定を図ることができます。
ただし、この制度は行使できる期限が決められており、期限内に請求しないと権利が消滅してしまいます。
この記事を読めば、遺留分制度を活用するときのポイントや注意すべき点について理解できます。
遺留分侵害額請求(減殺請求)とは
遺留分とは、一定の相続人に対して認められている相続財産の最低限の取り分のことです。
法律で定められている遺留分の割合は、直系尊属(親や祖父母)のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。
遺留分侵害額請求とは、遺留分に満たない財産しかもらえない場合、他の相続人や第三者に対して、遺留分に相当する金銭を支払うよう請求できる権利のことです。
たとえば、相続人が長男と長女のみだったとします。
長男にのみ全財産を渡すという遺言があった場合、長女は遺産の4分の1に相当する金銭を支払うよう長男に求めることができます。
また、第三者に全ての財産を遺贈するという遺言があったとします。
この場合、配偶者には、相続財産の4分の1が遺留分として認められているので、その分に相当する金銭を支払うよう第三者に請求できます。
尚、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。
以前は、遺留分減殺請求という制度がありました。
遺留分侵害額請求と似ていますが、遺留分減殺請求権は、遺留分を侵害する贈与や遺贈された財産の返還を請求する権利です。
財産そのものを返還する「現物返還」が原則であり、金銭での支払いは例外的でした。
2019年7月1日から法律が改正され、遺留分侵害額請求に制度が変わり、遺留分を侵害している場合に、財産そのものを返還する「現物返還」ではなく、金銭で請求することが原則となりました。
ここが大きな違いです。
遺留分侵害額請求を行使できる期限は1年(消滅時効)
遺留分侵害額請求権を行使できる期限は1年です。
民法第1048条には、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないとき」には遺留分侵害額の請求権は時効によって消滅すると定められています。
この条文を読むと、時効の起算点について、2つの要件があることが分かります。
1つ目の要件は、相続の開始を知った時です。
相続が開始するのは被相続人が亡くなった時なので、そのことを相続人が知っている必要があります。
2つ目の要件は、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時です。
単純に贈与や遺贈があったことを知っているだけではなく、自分の遺留分が侵害されていることに気づいて初めて、1年の時効の計算が始まります。
以上の2つの要件が揃った時が、時効の起算点となります。
ただし、2つ目の要件にある遺留分を侵害する贈与や遺贈に、いつ気づいたかを客観的に証明することは容易ではありません。
そのため、相続開始から1年経つと、遺留分侵害額請求はできなくなると考えておくのが無難です。
遺留分侵害額請求の除斥期間は10年
民法第1048条には、「相続開始の時から十年を経過したときも、同様(遺留分侵害額請求ができなくなる)とする」と定められています。
この10年という期間は法律上、除斥期間とされています。
後ほど説明するように、消滅時効は時効を中断させることができますが、除斥期間には時効の中断というものはありません。
そのため、相続開始から10年経過すると、遺留分侵害額の請求を一切できなくなります。
「相続開始の時から」とあるので、相続があったことを知っていても知らなくても、10年経てば請求できなくなってしまいます。
まとめ
今回は遺留分侵害額請求を行使できる期限や、遺留分侵害額請求の除斥期間についてみていきました。
次回は遺留分侵害額請求の時効を止める・中断させる方法についてみていきたいと思います。