遺言書は封をしていない状態でも有効?【その2】

今回は前回からの続きで、遺言書は封をしていない状態でも有効かどうかについて解説をしたいと思います。

 

【種類別】遺言が有効と認められるための要件

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封印の有無は遺言が有効と認められるための要件ではありませんが、民法では遺言書の書き方にルールが定められています。
このルールに従って書かなければ法的に無効となってしまいます。

 

それでは、遺言書の種類別に有効と認められるための要件を解説していきます。

 

自筆証書遺言が認められるための要件

自筆証書遺言とは、全文を遺言者が自筆で書く方式です。

大前提として、全文を自筆で書かなければいけません。誰かに代筆してもらったりパソコンで書いたものは無効です。

また、自筆証書遺言が有効と認められるためには下記の要件を満たさなければいけません。

 

作成年月日、署名、押印が必須

作成年月日、署名、押印の3点セットは必須です。

他は完璧に要件を満たしていても、日付だけでも書き忘れてしまうと、遺言書そのものが無効になってしまいます。

日付は西暦でも元号でも、どちらでもかまいません。また数字も漢数字、算用数字、どちらでも問題ありません。

 

ちなみに「平成〇年誕生日」でも日付を特定できるので良いのですが、やはりトラブルを避けるため「〇年〇月〇日」と書いておいた方が良いでしょう。

押印も必須条件です。印鑑は認印でも構わないことになっていますが、やはり実印を使うのがベストでしょう。

 

加除訂正も定められた方法で行う

遺言書に加筆、削除、訂正する方法も民法第968条で次のように定められています。

「遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」

 

加除訂正が定められた方式に従っていない場合は、その変更は無かったものとして扱われます。

 

  • 加筆は、加筆する場所に挿入する印をつけ加筆内容を書き、加入した位置に押印します。
  • 削除は、削除する部分を二重線で消して押印します。
  • 訂正は、訂正する部分を二重線で消して、変更する文言を書き入れ押印します。

 

さらに上記の変更した場所の上部欄外、もしくは遺言書の末尾に「この行参字加入」「本行弐字削除五字加入」などと変更した旨を付記して署名します。

このどれか一つでも欠けると変更はなかったものとなります。そこで、書き間違えた場合は最初から全文を書き直すのが最善でしょう。

 

財産目録はパソコンで作成しても良い

2019年の法改正で、遺言書の財産目録はパソコンで作成しても良いことになりました。また、目録でなくても不動産登記事項証明書や通帳のコピーの添付も可能です。

 

ただし、財産目録には偽造防止のために署名押印が必要です。また、財産目録以外の部分は全文自筆でなければいけません。

 

財産、相続人、受遺者を客観的に特定できるように書く

相続財産を記載するときは、客観的に特定できるように書かなければいけません。

「土地は長男、家屋は妻に相続させる」というようなあいまいな書き方ではダメです。

 

不動産の場合は、登記事項証明書、もしくは固定資産税台帳の記載通りに記載しましょう。預貯金も、金融機関の支店名、口座番号、名義などを記載します。

 

また財産を譲る相手もはっきりと特定できる形で記載する必要があります。
妻や子供の場合は「遺言者の妻○○に」「長男○○に」といった記載でも良いですが、法定相続人以外の受遺者に譲る場合は注意が必要です。

「遺言者の姪○○○○(昭和○○年○○月○○日出生)」「内縁の妻○○○○(本籍:○○、住所:○○○、昭和○○年○○月○○日出生)」のように記載します。

 

 

公正証書遺言が認められるための要件

公正証書遺言は、公証役場で公証人という法律のプロが作成する遺言書です。
遺言者が公証人と証人2人の立ち合いのもとで遺言内容を口述し、書類そのものは公証人が作成します。
それゆえに無効になる可能性が極めて低い安心、確実な方法です。

 

とはいえ、公正証書遺言が無効となったケースがないわけではありません。確実に有効な遺言書を作成するために下記に注意しましょう。

 

遺言者の意思能力がある状態で作成する

当然ながら遺言者は遺言作成時に正常な意思を持つ状態でなければいけません。逆に言えば心神喪失の状態ではいけないわけです。

 

公正証書遺言作成時は、公証人と証人2人の立ち合いのもとで作成するので、この点が問題になる可能性は極めて低いでしょう。
とはいえ、認知症の人が遺言書を作成する場合は注意が必要です。


民法では、成年被後見人でも本心に復したとき、つまり一時的でも意思能力があれば医師2人以上の立合いのもとで遺言ができるとされています。
その場合、医師は、当人が遺言時に心神喪失の状況では無かったと遺言書に付記し、署名・押印しなければなりません(民法973条)。

 

しかし、このような手順を踏んだとしても、場合によっては、一部の相続人から、認知症だった遺言者が正常な状態で遺言できるはずがない、と遺言無効確認訴訟が起こされることもあるかもしれません。


そこで、場合によっては遺言作成時の動画を撮影したり、作成時の医師の診断書を保管しておくなど、意思能力があることを証明できる対策を取っておくと良いでしょう。

 

遺言書は封をしていない状態でも有効?【その1】

遺品整理をしていると故人の遺言書が見つかることがあります。でも発見した遺言書が封をしていなかったらどうでしょうか。

 

見つけた遺言書が果たして法的に有効なのか、不安になるかもしれません。
また、場合によっては発見した遺言書をうっかり開けてしまって、あとから不安になるかもしれません。
このような遺言書は無効になってしまうのでしょうか。

 

今回と次回で、封をしていない遺言書が有効なのかどうか、また法的に効力のある遺言書の要件は何かを解説していきます。

 

遺言書は封をしていない状態でも有効

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遺言書は、多くの場合封印された状態で保管されています。内容の秘密を保つため、また変造や偽造を防ぐために、大抵の場合は封印されているわけです。

ですので、見つけた遺言書がもし封をしていなかったら、これは有効な遺言書なのかどうか不安になるかもしれません。

 

でも心配する必要はありません。封をしていない遺言書でも法的に有効なものとして認められます。

後で解説する法的に有効と認められる条件さえ満たしていれば遺言書は有効なのです。封印して保管することはその条件に含まれていません。

もちろん、秘密保持や偽造防止の観点からは封印するのがベストではあります。それでも、封印されていないことが原因で自動的に無効になるわけではないのです。

 

とはいえ、自筆証書遺言の場合は、封印されていないものでも家庭裁判所での検認手続きが必要です。
発見後はすみやかに裁判所に検認を申し出ましょう。

 

用紙や筆記用具のルールも特に定められてはいない

遺言書は封筒に入っておらず、紙切れ一枚、それもメモのようなものに書かれていたとしても、条件さえ満たしておけば有効なものと認められます。
極端な話ですが、手のひらサイズの小さなメモに鉛筆で書いた遺言書でも、それゆえに無効とはなりません。

 

遺言書は、民法で定められたルールに則って書かなければいけませが、そのルールに、遺言書の用紙やサイズ、筆記用具、封印の有無は含まれていないのです。

 

とはいえ、実際にあまりに極端な方法で遺言書を遺すと、相続人から遺言時の精神状態を疑われかねません。
また規定されてはいないとはいえ、実際に鉛筆などで書いてしまうと、後で読み取れなかったり、改ざんの恐れもあるので絶対に避けましょう。


すでに開封されている遺言も有効

では、もし発見した遺言書がすでに開封されていたらどうでしょうか。

明らかに元々は封印されていたのになぜか開封されている、というケースもあるかもしれません。
もしくは、発見者がうっかり遺言書を開けてしまった、ということもあり得るでしょう。

 

実はこの場合でも、遺言書の効力に変わりはありません。開封されている遺言書も無効にはならないのです。

もし、開封された遺言書が自動的に無効となるのであれば、わざと遺言書を開封しようとする人も出てくるかもしれません。開封して自分に不利な内容であろう遺言書を無効にしようとするかもしれないわけです。

 

このようなことから、遺言書が開封されていても直ちに無効とはなりません。開封された遺言書を見つけた場合も速やかに家庭裁判所の検認手続きを申し出るようにしましょう。

 

遺言書の偽造、変造、破棄、隠匿は重大なペナルティ

もし、開封済みの遺言書を見つけた発見者が、その内容が自分に不利だったために隠したり捨ててしまった場合はどうでしょうか。

この場合は、重大なペナルティが科せられることになります。遺言書の偽造、変造、破棄、隠匿した場合は、相続欠格といって相続人の権利を失う、と民法で定められています。

 

遺言書を勝手に開封すると5万円以下の罰金

開封済みの遺言書も有効であるとはいえ、遺言書は発見者が勝手に開封して良いというわけではありません。

 

民法1004条では、自筆遺言証書と秘密証書遺言に関して勝手に開封してはいけないと定められています。家庭裁判所で検認をして、相続人全員かその代理人の立ち合いのもとで開封しなければいけないのです。
もしこれを破ると5万円以下の過料(罰金)が科せられる可能性があります。

 

たとえ相続人全員の同意があっても、自分たちで勝手に開封してはいけません。

 

うっかり開けてしまった場合でも検認が必要

では、遺言書を見つけたときにうっかり開けてしまった場合はどうでしょうか。

実のところ、5万円以下の過料(罰金)が実際に科せられるのは大変まれなケースです。うっかり開けてしまった場合でも落ち着いて対処するようにしましょう。

 

決して再びのり付けしようなどとしてはいけません。開封した遺言書も依然として法的に有効なので、速やかに裁判所に持って行って検認手続きをするようにしましょう。

 

遺言書を作成するときは封筒に入れるのがおすすめ

では、遺族が遺言書を発見したときにうっかり開けてしまうリスクを無くすために、遺言書は封筒に入れない方が良いのでしょうか。

 

そうしておけば、遺族がうっかり開けてしまうこともないし罰金の心配をする必要もなく安心だ、と思われるかもしれません。

 

ですが、この方法はお勧めできません。法律で定められているわけではないとは言え、やはり遺言書は封筒に入れて保管するのがベストです。

 

封筒に入れていない状態だと、第三者や相続人の一人に遺言書の中身を見られてしまう可能性があります。
また、遺言書が封印されていないことが原因で、相続人間のトラブルを招いてしまう可能性もあります。
封印されていない状態の遺言書が発見者に有利な内容だと、他の相続人の不信感を招いてしまうかもしれません。
これは本当に遺言者が書いたものなのか、遺言者の意思を反映したものなのか、他の相続人が疑いの目で見てしまう可能性があるわけです。

 

封筒に入れて封印することでこうしたリスクを防ぐことできます。秘密保持が担保されますし、誰かに中身を改ざんされたり偽造されたりする心配もありません。


遺言書の封筒の書き方

では、実際に遺言書を封筒に入れて保管するときはどうすれば良いのでしょうか。

 

遺言書そのものにも用紙やサイズの規定がないわけですから、当然封筒のサイズや色にも特にルールは定められていません。
とはいえ、後々のリスクを減らすことを考えると、裏紙のあるタイプのものがオススメです。これなら中身が透けて見えてしまうことがありません。

 

封筒の表には「遺言書」や「遺言書在中」などと書いておくと良いでしょう。

 

裏には「本遺言書は、遺言者の死後、未開封のまま家庭裁判所に提出のこと」などと添え書きしておきます。
そして遺言書の作成年月日を書き、署名押印します。押印の印は遺言書に用いた印鑑を使います。

 

封筒の裏に記入することをまとめると以下のようになります。

  • 発見者に検認を促して、うっかり開封しないよう注意書きする
  • 遺言書の作成年月日と署名押印
  • 押印は遺言書に用いた印鑑で、署名の後とのり付けした部分の2か所

 

なお、封をするときは簡単にはがせないように、液体のりなどでしっかりとめておきましょう。

遺留分侵害額請求の時効を止める(中断させる)方法

前回の記事では消滅時効には、時効の中断があるということについて少し触れました。

では、遺留分侵害額請求の時効を中断させるためには、どうすれば良いのでしょうか?

 

遺留分侵害額請求の時効を止める(中断させる)方法

内容証明郵便がお勧め

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遺留分侵害額請求権は形成権であるといわれています。
形成権とは、単独の意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利です。

それで、相手の反応に関わりなく、こちらが遺留分侵害額請求を行うという意思表示をすれば、時効は中断します。

 

口頭・メール・FAXいずれの手段で伝えることが可能ですです。

ただし、証拠を残すという観点からは、相手方に内容証明郵便を送付しておくことをお勧めします。

 

フォーマットが決まっているわけではありませんが、内容証明郵便には、被相続人の情報、相続開始日、交渉相手である相手方の情報、遺留分侵害額請求を行う旨の記載、自分の氏名などを含めておきましょう。

 

遺留分侵害額請求を行うときの4つのステップ

遺留分侵害額請求を行う場合は、次の4つのステップで進行していくと考えておくと分かりやすいでしょう。

 

(1)遺留分侵害額請求の内容証明郵便を送ります。
これで時効を中断させることができます。


(2)裁判外での交渉を行います。
内容証明郵便が相手方に到着したことを確認できたら、当事者同士で話し合いを始めます。


(3)合意書を取り交わします。
裁判外での交渉で話がまとまれば、合意書を取り交わしておきましょう。
この時、合意書は公正証書で作成しておくことをお勧めします。
公正証書で作成しておけば、金銭の支払いがされない時に強制執行が可能になります。


もし話がまとまらない場合は、(4)裁判所で遺留分侵害額請求の調停を行います。
どうしても折り合いが付かず調停が不成立の場合は、訴訟へと移行していきます。


遺留分侵害額請求に関する注意点

遺留分侵害額請求を行う時には、以下の点にも注意しましょう。

 

遺留分侵害額請求は、相手方に対する金銭の請求という形で行われますが、この金銭債権にも時効があります。
改正民法により、金銭債権の消滅時効は、権利行使できることを「知った時」から5年です。

 

権利行使できることを知らなかった場合も「できる時」から10年で消滅するとされています。

 

遺留分侵害額請求の場合は、通常であれば権利行使できることを知っているはずなので、5年で消滅することになります。

 

せっかく遺留分侵害額請求が認められた場合でも、金銭の請求をせずに5年以上放っておくと、遺留分相当の金銭請求ができなくなってしまいます

 

相手方から支払いがされるまでは、気を抜くことはできません。

また、遺留分が関わる相続では、遺言が無効であるとして遺言無効確認調停や訴訟が起こされることがあります。

 

ただし、遺言無効確認訴訟を起こしても、遺留分の消滅時効は中断しません

 

遺言無効の訴訟を起こしたので安心と考えていると、後日、敗訴したときに、遺留分の請求ができなくなっているということになりかねません。

 

遺留分侵害額請求は、別途行っておく必要があります。

 

贈与や遺贈の無効についても同様です。
無効だと思って遺留分侵害額請求を行使しなかった場合、消滅時効は進んでいくと考えられていますので、忘れずに請求をしておきましょう


まとめ

今回は遺留分侵害額請求の時効を止める・中断させる方法についてみていきました。


現物返還と金銭請求のどちらを原則とするかが大きな違いでしたが、現在の遺留分侵害額請求では、金銭請求が原則です。

 

遺留分侵害額請求(減殺請求)を行使できる期限は1年!

父親が亡くなった後に、残されていた遺言を確認すると、自分にはほとんど相続する財産が残されていなかった。

父親には晩年愛人がいて、遺言で愛人に全財産を譲るとされていた。
母親の生活はどうなってしまうのか?

 

上記のケースのように、相続人にとって不公平だと感じる遺言が残される場合もあります。

民法に定められている遺留分制度を活用するなら、法律で保証されている最低限の相続分を取り戻すことができ、生活の安定を図ることができます。

 

ただし、この制度は行使できる期限が決められており、期限内に請求しないと権利が消滅してしまいます。

 

この記事を読めば、遺留分制度を活用するときのポイントや注意すべき点について理解できます。

 

遺留分侵害額請求(減殺請求)とは

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遺留分とは、一定の相続人に対して認められている相続財産の最低限の取り分のことです。


法律で定められている遺留分の割合は、直系尊属(親や祖父母)のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。


遺留分侵害額請求とは、遺留分に満たない財産しかもらえない場合、他の相続人や第三者に対して、遺留分に相当する金銭を支払うよう請求できる権利のことです。


たとえば、相続人が長男と長女のみだったとします。
長男にのみ全財産を渡すという遺言があった場合、長女は遺産の4分の1に相当する金銭を支払うよう長男に求めることができます。

 

また、第三者に全ての財産を遺贈するという遺言があったとします。

 

この場合、配偶者には、相続財産の4分の1が遺留分として認められているので、その分に相当する金銭を支払うよう第三者に請求できます。
尚、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。

 

以前は、遺留分減殺請求という制度がありました。
遺留分侵害額請求と似ていますが、遺留分減殺請求権は、遺留分を侵害する贈与や遺贈された財産の返還を請求する権利です。

 

財産そのものを返還する「現物返還」が原則であり、金銭での支払いは例外的でした。

 

2019年7月1日から法律が改正され、遺留分侵害額請求に制度が変わり、遺留分を侵害している場合に、財産そのものを返還する「現物返還」ではなく、金銭で請求することが原則となりました。

 

ここが大きな違いです。


遺留分侵害額請求を行使できる期限は1年(消滅時効)

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遺留分侵害額請求権を行使できる期限は1年です。

民法第1048条には、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないとき」には遺留分侵害額の請求権は時効によって消滅すると定められています。

 

この条文を読むと、時効の起算点について、2つの要件があることが分かります。

 

1つ目の要件は、相続の開始を知った時です。
相続が開始するのは被相続人が亡くなった時なので、そのことを相続人が知っている必要があります。

 

2つ目の要件は、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時です。
単純に贈与や遺贈があったことを知っているだけではなく、自分の遺留分が侵害されていることに気づいて初めて、1年の時効の計算が始まります。

 

以上の2つの要件が揃った時が、時効の起算点となります。
ただし、2つ目の要件にある遺留分を侵害する贈与や遺贈に、いつ気づいたかを客観的に証明することは容易ではありません。

 

そのため、相続開始から1年経つと、遺留分侵害額請求はできなくなると考えておくのが無難です。

 

遺留分侵害額請求の除斥期間は10年

民法第1048条には、「相続開始の時から十年を経過したときも、同様(遺留分侵害額請求ができなくなる)とする」と定められています。

 

この10年という期間は法律上、除斥期間とされています。
後ほど説明するように、消滅時効は時効を中断させることができますが、除斥期間には時効の中断というものはありません

 

そのため、相続開始から10年経過すると、遺留分侵害額の請求を一切できなくなります。

 

「相続開始の時から」とあるので、相続があったことを知っていても知らなくても、10年経てば請求できなくなってしまいます。

 

まとめ 

今回は遺留分侵害額請求を行使できる期限や、遺留分侵害額請求の除斥期間についてみていきました。

 

次回は遺留分侵害額請求の時効を止める・中断させる方法についてみていきたいと思います。

相続手続きの期限について

相続手続きは手続きごとに期限の有無があるため、慌ただしい中で期限に注意しながら進めなければいけないという特徴もあります。

 

相続手続きの期限はどうなっているのでしょうか。

 

この記事では相続手続きの全体的な流れや必要書類、期限などについて説明します。


相続手続き期限について

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相続手続きには期限のある手続きと期限がない手続きがあります。
期限のある相続手続きは以下の通りです。

 

  • 相続放棄や限定承認
  • 相続税申告
  • 準確定申告
  • 遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求権)

 

相続放棄や準確定申告、相続税申告についてはすでに期限についてお話ししましたので、遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求権)について補足します。

 

遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求権)とは、相続の際に「必要最低限の遺産の取り分をよこせ」と請求する権利になります。

 

たとえば、ある相続人にはまったく遺産を渡さず、特定の相続人だけに遺産を集中させたとします。
まったく遺産を受け取れなかった相続人が配偶者や子供の場合は被相続人が遺産を渡さないことによって生活が困窮する可能性があるはずです。

 

遺産には家族の生活の基盤になる資産をいう性質もあるためです。
このようなケースでは、遺留分が認められている相続人については、遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求権)により最低限の遺産の取り分を主張できるルールになっています。

 

遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求権)の期限は、被相続人の死と遺留分の侵害を知ってから1年です。

 

この他に、保険金の請求は3年、埋葬料・葬儀費や国保の死亡一時金の請求は2年などの期限があります。

 

相続手続きの期限はなくても必要なもの

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相続手続きの中には期限がなくても早めに済ませる必要のある手続きがあります。
相続人の調査や遺産の調査、金融機関の相続手続き、不動産の相続手続きなどは期限がありません。

 

しかし、相続人や遺産の調査については、早い段階で行わないと期限のある相続手続きができないのです。

 

たとえば相続税の手続きをする場合、相続人や遺産が調査により判明していないと手続きができません。


すでにお話ししたように、相続税申告には10カ月という期限があります。
期限内に相続税手続きをするためには、期限のない相続人調査や遺産調査を先に終わらせていることが前提なのです。


また、相続放棄などは3カ月という期限がありますが、こちらについても事前に相続人や遺産の調査が終わっていることが前提になります。


このように、期限のない相続手続きについても、期限のある相続手続きの前段階として済ませなければならないケースがあるため、期限のある相続手続きの期限に合わせて進める必要があるのです。


相続手続き自体に期限がなくても、早めに済ませなければ後の相続手続きに差し支えるものがあります。

 

特に遺産や相続人の調査は相続手続きの前提になるわけですから、早い段階で着手して済ませることが重要です。

 

この他に、相続期限がなくても早い段階で済ませたい手続きはふたつあります。
ひとつは遺産分割協議で、もうひとつは相続登記です。

 

相続人で遺産をわける場合は遺産分割協議をしなければ相続人ごとの遺産の取り分がわかりません。

 

遺産の分割がわからないということは、相続手続きを進められないということです。
相続手続きを進めるためにも、遺産分割協議は早めに進める必要があります。

 

相続登記も期限はありませんが、放置すると手続きがその分だけ困難になるため注意が必要です。

 

不動産の登記は基本的に中間を省略して手続きができません。
権利が移動した順に登記が必要になるのです。放置するとどの分だけ相続関係や権利関係が複雑化し、必要書類の収集などに手間取る可能性があります。


相続登記も早めに行いたい相続手続きのひとつです。

 

 

まとめ

相続手続きになれていないと「どの相続手続きからはじめればいいのだろう」と困惑することもあるのです。

 

また、期限のある手続きを優先した結果、期限のない相続手続きが前提になっていることを知らず、手続きできない可能性があります。

 

相続手続きをスムーズに進めるためには、専門家に任せるのが一番です。
専門家は相続手続きの手順から実務まで把握しています。
期限に遅れることなく、必要な相続手続きをスムーズに進められます。